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フリーの小噺と好きな音楽

泥水のようなコーヒーを出す、クソみたいな喫茶店でかかっていてほしい曲 5選

ホットコーヒーがおいしい季節になりました。

 

私が住んでいる愛知県の某市は、いわゆる「モーニング」発祥の地と言われておりまして、コーヒーを頼むとデフォルトで小倉トーストとサラダとゆで卵がついてくるようなお店がそこら中に存在します。ちょっと早く起きた日曜日なんかは、近くのそういった喫茶店に出かけて行って、朝ご飯を食べて、おいしいコーヒーを飲みながら、午前中いっぱい持ってきた文庫本をだらだら読んで過ごすわけです。これ以上幸せな時間って、実はあんまりないんじゃないかな、と思います。

 

そういった喫茶店では、大体店主のセレクトした小洒落た音楽だったり、なにがしかのBGMがかかっていたりして、それがまた心地いいわけです。チェーン店でも音楽の面でお客さんに居心地のいい空間を提供しようという尽力されていて、そういった素敵な経営努力は、これまでいろいろな形で取り上げられてきました。例えばスターバックスの選曲をまとめたものはこんな感じです。

 

これは必聴!【まとめ】元CD屋がオススメする!スタバで流れる名曲リスト(全15曲) - ライフハックブログKo's Style

 

非の打ちどころのない選曲です。多幸感を生み出す、洗練された選曲。

そして、とてつもなくつまらない選曲です。

 

幸せと退屈は表裏一体でございます。生まれてから死ぬまでいいことしか起こらなければ、人生の実感を得ることはできません。

また「最先端にお洒落」ということは同時に、時代が進んで大衆化すれば、それは常に陳腐化する危険性をはらんでいるということでもあります。島根で大行列ができた段階から、スターバックスはもはやヒップな存在ではないのです。

 

スタバの当たり障りのない選曲はもう古い!スタバなんぼのもんじゃい!コメダをなめんな!

 

というわけで今回は「こんな曲流れてたら嫌だな」という個人的な観点から、幸せな日曜日の朝を過ごす喫茶店にふさわしくない曲をご紹介します。いろんなことに言えますが、人間、良い事例からより悪い事例からの方が、学ぶべきものがたくさんあるのです。

 

それではいってみましょう。

 

Captain Beefheart & His Magic Band「Frownland」


Captain Beefheart - Frownland - YouTube

 

まずはベタなところから行きましょう。キャプテン・ビーフハート・アンド・ヒズ・マジックバンドの名盤、『トラウト・マスク・レプリカ』の一曲目です。

 

トラウト・マスク・レプリカ

トラウト・マスク・レプリカ

 

 

アルバムタイトルを直訳すると「偽の鱒の仮面」。タイトル・ジャケットからして発酵した匂いを漂わせておりますが、これが全編丸ごと日曜日の朝の多幸感をぶち壊す代物で、こんなものがポピュラーミュージックの範疇の中で売られていた60年代という時代のヤバさに改めて恐怖を禁じ得ません。

この「Frownland」という曲は、そんなアルバムの一曲目を飾るオープニングナンバーです。文法無視の饒舌ギター、合ってるんだか合ってないんだかわからないドラム、酔っぱらったボーカル。各人がてんでばらばらに楽器を鳴らしているように思えますが、実はすべてのパートが、キャプテン・ビーフハートという一人の人間が生み出した「譜面」から一ミリもずれずに演奏を遂行しています。つまり、本人はいたって真面目に音楽をやろうとしているという事実。

リラックスしたい時に一番出会いたくない人間が、感性がまるで理解できない自分と異質の人間であるというのはいまさら言うまでもありません。そして、リラックスしたい時にそういう人間の生み出す音楽を聞いてはいけないのも自明の理。

この『トラウト・マスク・レプリカ』というアルバムは2枚組なんで、CDにすると収録時間が70分超えるんですけど、終始こんな感じなんですよね。買った当初はCDデッキに入れたことを後悔しましたよ。

ちなみに、プロデューサーはフランク・ザッパです。

 

The Shaggs「My companion」


5 - My companion - YouTube

 

これもその筋には有名なバンドです。「世界最悪のロックンロールバンド」シャッグスの衝撃的なデビューアルバムからの一曲であります。

 

Philosophy of the World

Philosophy of the World

 

 

ビジュアルもなかなかパンチがありますが、曲を聴くとその狂気がより実感できるでしょう。開始一秒で「歌が下手な人の物まね」ではないことがわかる傑作です。やはり「ホンモノ」は、纏うオーラがまるで違う。

全てが不快ですが、特にイラッとくるのが全然テンポをキープできてないドラムが一丁前にオカズを入れてることで、後半押し寄せる怒涛のクソの畳み掛けに拍車をかけていきます。真冬に暖かいコーヒーが飲みたくなって、ふと目に入った喫茶店で入った瞬間この曲が流れていたら、どんなに寒くても黙って店を出る自信があります。

ちなみに、フランク・ザッパはこのシャッグスを評して「ビートルズよりも重要なバンド」という言葉を残しています。うーん、ザッパ人脈、強し。

 

John Coltrane「Ascension」


John Coltrane - Ascension 1/4 - YouTube

茶店と言えばコルトレーン、というのは、『バラード』『ブルートレイン』あたりしか聞いてないライトな層の幻想です!

アルバム一枚にまるっと一曲(40分ほど)をぶち込んだこの「Ascension」という作品は、コルトレーン屈指の「ジャズ初心者のジャズを聴きたいという気持ちを叩き折る」名盤。

 

 

アセンション

アセンション

 

 

とにかく、ほかの何事にも集中させないという気概にあふれる演奏で、ジャズを「BGM」としてとらえている人を愕然とさせること間違いなし。さらにポイントが高いのが、ジョン・コルトレーンという、誰でも知っている、ジャズを最初に聴くならこの人、というような人が発表した作品であることで、喫茶店の店主がよく調べもしないでCD買ってきて失敗しそうという地雷感も高得点。これがオーネット・コールマンアルバート・アイラーだったらまあ気持ちの準備もできるようなものですが。

 

中島みゆき「エレーン」

本人が歌うものがなかったので。


巡音ルカ Megurine Luka ~「エレーン/中島みゆき」 - YouTube

 

どんなにいい曲でも、TPOはわきまえよう!

くらーい中島みゆきの作品群の中でもとりわけくらーい1980年のアルバム『生きていてもいいですか』(なんちゅータイトル)の中でも一際くらーい一曲。

 

生きていてもいいですか

生きていてもいいですか

 

 

曲調ももちろん暗いのですが、歌詞がとにかくキツイ。

中島みゆきと同じアパートに住んでいた外国人娼婦がある朝無惨に殺害され、全裸でゴミ捨て場に遺棄されていたという事件がきっかけということですが、新聞はわずか数行の扱いで、捜査も結局迷宮入りになったという思い出をもとに制作したと、のちに中島みゆき本人がコンサートにて語っています(概要を書いているだけでもう気力を失くす)。

「暗いからイヤ」というよりも、これは歌われている事象があまりにも具体的で生々しいという意味でリラックスできませんね。日曜日の朝の喫茶店ぐらいは日常の雑事を忘れたいところですが、雑事どころじゃない生きることの闇をありがたくも思い出させてくれちゃうというのが高得点です。少なくとも「生きていてもいいですか」なんて言う問いかけは、喫茶店で温かいコーヒーをすすりながらするものじゃありません。

ちなみに「歌詞が具体的過ぎる」という同様の理由で、さだまさしの「償い」が次点に入ります。

 

燃える闘魂アントニオ猪木のテーマ:炎のファイター~INOKI BOM BA YE


燃える闘魂・アントニオ猪木のテーマ:炎のファイター~INOKI BOM BA YE~ YouTube x264 - YouTube

いい曲か悪い曲か、というのじゃなくて、一つのイメージに結び付きすぎているのがダメ!

言うまでもなくプロレスラー、アントニオ猪木が入場テーマとして使用していた曲ですが、

あまりにもそのイメージが強いので、曲を聴いてしまうと猪木の顔が浮かんでしまうというのが致命的です。もう最初から「猪木ボンバイエ」って言ってしまっている時点でそこから逃れられないのですからどうしようもありません。

ただし、最近は若者のプロレス離れが加速し、「横浜市鶴見区出身の、元参議院議員で、倍賞美津子の元旦那で、森進一と同じくらい物まねのフリに使われることが多く、異様に背が高くあごのしゃくれた男」という猪木の一側面しか知らない方も増えたのではないかと思います。そう考えるとこの「猪木ボンバイエ」という冒頭の歌詞も、よくわからない外国語に聞こえないこともなく、そもそも戦意高揚としては最高の曲ですから、意外とアリなのではないかなと思わないこともなかったのですが、日曜日の喫茶店で戦意を高揚する意味がないので、たとえ猪木が元プロレスラーであることを知らないという人がいてもやっぱり駄目です。

ついでに言うと、「元気があれば何でもできる」などの標語は明らかにブラック企業のブラック経営者が発する危険な言動と酷似しているため、日曜日に喫茶店でリラックスしているときに絶対に彼の存在を思い出したくないというのも選出の要因となります。

 

まとめ

こう並べて考えてみると、やっぱり選ばれている曲には選ばれている理由が、選ばれていない曲には選ばれていない理由があることに気づきますね。コーヒーを飲んでリラックスしたい時、そこに必要なのは「自分だけの空間」です。孤独こそが深い内省とリラックスを与えてくれます。音楽はそれを必要最低限助けてくれるだけでいい。言い換えれば「あんまり主張してくるな!」ということです。なんとなく、流れているか流れていないかくらいの距離感がちょうどいいのだと。

 

結論としては「スタバ最高!」ということです。

島根に行く前に、うちの近くにもスタバさん、来てください!どうかお願いします!

 

ではでは。