Add Some Comedy To Your Day

フリーの小噺と好きな音楽

ロックンロール落語「リヴァ浜」

 この話はフィクションです。実在の人物、団体、世界的前衛アーティストとは、一切関係ありません。

 

その昔、イギリスはリヴァプールに、ジョンさんという、大変に歌の上手い男がおりまして、古いロックンロールをカバーさせれば天下一品、オリジナル曲を書かせれば、それまでにない深いメッセージ性を含んだ曲を書く。それはもう若者から大人たちまで、大変な人気ぶりだったそうでございますな。

「カモン!カモン!カモン!カモン!」

「シラッジューイェーイェーイェー!」

「へゥップ!」

「アウォナホージャーハアァァァンッ」

とまあ、次から次へと、自分の作ったバンドでヒットを飛ばしていったんでございます。
この人が、ま、大変に評判がいいんですけれども、クスリが好きなんですな。これが、仕事が終わって家帰って一人でちょっと嗜むとか、夫婦差し向かいで仲良くプライベートで飛ぶんだったら、まことに良いんでございますが*1、これが、仕事中だろうとなんだろうと、どこでものべつ、here, there and everywhereでラリっている。こうなるといけませんな。

https://youtu.be/xdcSFVXd3MUyoutu.be

 

で、前だったらこんな酷い出来の曲はとてもレコーディングして出さないような曲も、ラリってまともな判断ができないもんで、もう出しちゃうと。よくわかんない曲ばっかり出すわけですな。

「ただただ眠いわ〜…」

「ひたすら疲れたわ〜…」

ナンバーナインナンバーナインナンバーナイン〜…」

そうなって来ると、もともとのお得意客が、なんだかよくわからないてぇことで、離れていったり、マネージャーも怒ったりなんかするわけですな。

エプスタイン「おいジョン公!最近おめえさん、ちいとたるみ過ぎてやしないかい?レコーディング中もスタジオの屋上でLSDをキメる、ライブはやらない、まともな曲は書かない。いい加減にしないと、せっかく才能があるってえのに、ファンが泣いてるぜ!」

ジョン「うるさいな。ドラッグキメてんのはお前もいっしょだろうが。あと、あんなクソみたいな警備体制じゃあ二度とライブなんかやるつもりはないね。付け加えると、お前、バンドの稼ぎを異常な割合で中抜きしてるよな。泣いてるのはファンじゃなくて俺たちバンドのメンバーだから。二度とでかい口聞くなよ、この悪徳クソ××マネージャー」

エプスタイン「(絶句。そしてショック死)」

そういうことで、誰も注意する人間がいなくなり、ますます増長するわけですが、ただ肝心の、以前のようなイキの良い曲が書けない。曲が書けないので、レコーディングもサボりがちになり、毎日家でダラダラと過ごしたり、誰が買うんだかわからない、嫁さんの名前をただ絶叫するだけのエキセントリックなレコードを出したりする。

 

Wedding Album by JOHN / ONO,YOKO LENNON
 

 



そんなある日のこと
ヨーコ「ちょっとアンタ、アンタってば!」
ジョン「ん、ん、ん…。何だよ…。もうちょっと寝かせろよ…。グッドナイト…」

https://youtu.be/Qp_djIuQ2Cwyoutu.be

 

ヨーコ「ダメだよ!今日と言う今日は、しっかりレコーディングに行ってもらいますよ!せっかく世界的有名バンドのリーダーと結婚したってのに、もっと稼いでくれないと贅沢できないじゃないのさ。さ、さ、早く行っとくれ!」

https://youtu.be/i5m-sgtwFckyoutu.be

 

ジョン「でもよお、外はまだ明るいぜ?本当に夜か?俺たちゃ夜にならなきゃレコーディングする気が起きないぜ?」

ヨーコ「何言ってんだい、イギリスの昼は日本と違って長いんだよ!歩いてアビーロードスタジオまで行って着く頃には、ちゃあんと夜になってるさ。心配しないで早く行っといで!」

ジョン「はぁあぁあぁ、男は家庭の奴隷か!ってね。まったく。わかったよわかったわかった。行けばいいんだろ行けば」

https://youtu.be/j5RuCEhHcG4youtu.be

 

ということでスタジオに向かったジョンさんでありました。そしてその数時間後、アビーロードからほど近い、ポールさんという、こちらはジョンさんのバンドメンバーの方なんですが、彼の家のドアをたたく音がする

ドンドンドン、ドンドンドン(扉を叩く音)

ポール「ハイハイ、どなたですか?今開けますよ。どなた?」
ジョン「俺だ俺だ(ドンドンドン)、開けてくれ!(ドンドンドン)」
ポール「お!こりゃあ珍しい、ジョン公じゃねえか!やけに早い時間に来たね。どうしたって言うのさ」
ジョン「冗談じゃねえやい!聞いてくれよ!うちのカミさんくらいそそっかしい奴はねえや!だから俺は言ったんだよ、ちょっとまだ早すぎやしねえかって。あいつがさ、スタジオに着く頃には夜になってるって、そう言ったんだよ。だから俺は言われた通り向かったんだ。ところがスタジオに着いたって、お前ら3人、ジョージ・マーティンだって、いつまで経っても来やしねえ。おかしいなあと思ってたら、ビッグ・ベンの鐘が聞こえた。2時間も間違ってんだよ、あのアマ!帰って撃ち×してやろうと思ったけど、それじゃ逮捕歴がついちゃうから、俺は我慢してスタジオに残ったんだ。それでよ、仕方がねえから洗面所に行って、どうにも眠くてしょうがねえから、ちょっとまた飛ぼうと思って、シャブの浜で全身の血を洗ってたんだ。そしたらよ、極彩色の万華鏡が脳でピカピカ光って、なんだか黒い天使が俺にメロディを囁くんだよ。なんだろな、と思ってウツロに歌詞を載せてみたら、それがぴったり合ってよ、あっという間に1曲出来ちまったんだよ。そんで俺は、誰かが俺を監視してるんじゃねえか、俺のこの最高の曲を奪い取ろうとしてるんじゃねえかと、怖くなって駆け出してきたんだよ」

 

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ポール「そりゃあいいや!お前さん、ラリってまたとんでもない曲、書いたのかよ。ちょっと、その曲、聞かせとくれよ!」

ジョン「ああ、ちょっと、ちょっと待ってくれ。聞かせてやる。ちょっとまあじゃあ、弾き語りだけどな、いいか、ほらこんな感じの…あひと、ふた、ひとふたみいよっ」

https://youtu.be/oolpPmuK2I8youtu.be

 

ポール「ふうん。でも、お前さんこれ、他人の曲じゃないかい?こりゃあ俺、どっかで聞いたことあるメロディーだぜ。本当にいいのかい?」

https://youtu.be/8JuO3YkNY8Myoutu.be

 

ジョン「いいんだよいいんだよ細けえことはさあ。その辺の新人の、まだ発表されてない曲を盗んだんなら、これはひどい盗作だぜ?でも俺が拾ってきたのは、既にその名が世に轟く、チャック・ベリーのメロディじゃあねえか。ビーチボーイズの『Surfin' USA』を見ろ。おめえだって『Back in the USSR』なんて曲を、書いているじゃあねえか。チャック・ベリーの曲は誰が使ってもいい、いわば天下の回りもんなんだよ!」

ポール「ふうん。そうかい。まあ確かにそうだな。じゃあさっそくちゃっちゃとレコーディングしちまおうか」

 

ということで、仲間と一緒に大いに盛り上がってレコーディングをして、それから3年の月日が経ったエイプリルフールの晩でございました。もう近頃じゃ、ジョンさんのバンドは解散するし、元メンバーと泥沼の裁判沙汰も演じたし、アメリカからは国外退去を命じられたし、チャック・ベリーの版元からは結局訴えられるし、そのうえ次のアルバムに入れる曲はまるでできてない、という有様。

 

ジョン「おおう、今帰ったよ!まったく、とんだ茶番だったなぁ、ヌートピア宣言。正直ついていけない部分があるね。まあ俺もよ、乗りかけた船だからやってるけど、最近は何をやってんのか自分でも訳が分からねえときたもんだよ、まったく」

メイ・パン「おかえんなさい。大変だったでしょう。だから私ね、言ったんだよ、ヨーコさんに。新国家樹立の記者会見をジョンと開く、なんて言うからさ、キ×××扱いされるからやめたほうがいいってさ。でもあの人、一度言い出したら聞かないだろ?まったくねぇ、本当に。冗談も休み休み言って欲しいよ、専属秘書としてはさ」

ジョン「ああー、考えてみるってえと、こんな嘘であって欲しいエイプリルフールはねえや。3年前の4月に、ポールの野郎が脱退宣言を一人でぶちまけやがって、そっからいろんなことがめちゃくちゃだ。やっぱりアレだな、いっくら愛だの平和だの訴えても、政治活動だのにうつつを抜かしても、やっぱりまともなロックンロールがをやらなきゃストレスがたまる一方だ。できるならさ、あのリヴァの浜で天下一のロックバンドを目指してグループを立ち上げた頃に、もう一回戻りてえなあ」

メイ・パン「あんた、今の言葉、本当かい?」

ジョン「ああ本当だとも」

メイ・パン「あのね、これはあんたに、ずっと、言えなかったことなんだけどね…」

ジョン「なんでえ藪から棒にあらたまって。賃上げ交渉かい?それならもう適当にやっといてくれれば…」

メイ・パン「そうじゃないんだよ。3年前にさ、ポールさんが脱退宣言して、そのあとお前さんがた残りの3人を、裁判で訴えたろ?」

ジョン「ああ!ああ!ありゃあ忘れもしねえさ!頭にきたもんだから、俺はあいつへの罵詈雑言で曲まで作ったくらいだ!忘れもしねえよ!」


John Lennon How Do You Sleep (Official Music Video)

 

メイ・パン「そうだろ?でもさ、どうやらそれが違ってたらしいんだよ。なんでもポールさんはね、あんたがた3人も含めて、バンドの利益を悪徳マネージャーから守るために、わざわざ悪役になって裁判をやったらしいんだよ」

ジョン「なにぃ?」

メイ・パン「いやね、詳しいことはわからないんだけど、とにかく悪気があってやったわけじゃないみたいでさ。それが証拠に、お前さん、自分のアルバムの売り上げの収入はちゃあんと入ってきているだろ?もしポールさんが訴えてなかったら、そういうわけにもいかなかったらしいよ」

ジョン「そうか…。まあどうも、疑わしいとは思ってたんだよな…。そうかまさか、ポールの野郎がそんなことをねえ」

メイ・パン「それでね、そのポールさんが、どうやらもう一回、あんたたちと組んで、レコーディングしてみるのも面白いって、そういってるらしいんだよ。どうやら最近のライブでは、お前さんたちのバンドで作った曲を演っていたりもするって噂だよ!」


WINGS - WINGS OVER AMERICA [full Triple LP album]

 

ジョン「そりゃあ本当か!あいつ、怒ってないのかな?俺ぁずいぶんとあいつのことをボロクソにけなしちまったんだけど…」

メイ・パン「怒ってやしないさ!お前さんとあの人の仲じゃないか!電話して、ちょっと話せばすぐ元通りになるさ!そうしてさ、他の2人も集めて、もう一回グループを再結成すればいいじゃないか!」

ジョン「再結成、再結成か!いいなあ!またあのグループで、へへへ、そりゃあいいや!Fab4!イカしてるよなあ!そうしたらもう一回天下を取るぜ、俺らは!曲のストックだって山ほどあるんだ!それじゃさっそくポールに電話を………………いや、やっぱりやめとこう」

メイ・パン「どうして?」

ジョン「また裁判になるといけねえ」

https://youtu.be/7zZsKOvXiFoyoutu.be

(♪出囃子)

*1:よくありません