クリスマスソング決定版 7選
クリスマスソングが好きだ。
まず、単純に名曲が多い。僕が普段メインで聞いているロックンロールやポップスという音楽は、おおざっぱに言えばキリスト教(ほかの宗教と比べて圧倒的に音楽とのつながりが強い)の文化圏で生まれたものだが、そのキリスト教の最も大きなイベントと言えるのがクリスマスである。彼らにとって「クリスマス」は古来特別な感情を持って臨むイベントであり続けてきたため、古くは中世以来の伝統を持つ讃美歌から21世紀の現代にいたるまで「クリスマスソング」はそもそも絶対数がとてつもなく多い。つまりそれだけ名曲が生まれる土壌が豊かということだ。
加えて、クリスマスソングから生まれたヒット曲は、通常のヒット曲に比べて強度が高い、というのもある。というより、クリスマスソングには、高い強度を保てる環境が整っている。
どういうことか。普通、ポピュラーミュージックというものは、大衆に向けられた音楽であるが故、「飽き」という逃れられない課題を常に突きつけられている。「ラッスンゴレライ」や「あったかいんだから」が廃れたのは、「曲が悪かったから」ではなく、「毎日、どこに行っても流れていたから」というその1点に尽きる。どんなにいい曲であっても―というより、「シンプルな構成で短くて覚えやすい」というのが特徴のポピュラーミュージックというジャンルの中で、優れていればいるほど―「飽き」から逃れるのは難しい。
対してクリスマスソングである。クリスマスシーズン以外のクリスマスソングというのは、自分から思い立って聞こうとは思わないし、メディアから接する機会もほぼない。僕も何枚かクリスマスアルバムを所持しているが、12月も3週目くらいにならないとそれをデッキに乗せるのは憚られる。接する回数が少ないというのは、それだけで高い強度が保ちやすくなることと同義なのだ。
前置きが長くなった。ということで、今日は「ぼくの選ぶ最強のクリスマスソング」でいってみようと思う。ここ10年ほど、クリスマスシーズンになると古今東西のクリスマスソングを片っ端から聞いてきたので、ここに還元したい。先に結論を言っておくと、”結局季節モノはベタなのがいちばん”ということです。
それではどうぞ。
The Ventures / Blue Christmas
The Ventures' Christmas Album (Deluxe Expanded Mono & Stereo Edition)
- アーティスト: THE VENTURES
- 出版社/メーカー: REAL GONE MUSIC
- 発売日: 2016/11/04
- メディア: CD
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数多のミュージシャンがカバーしてきた古典的名曲。もっとも有名なバージョンはエルヴィス・プレスリーのものだと思われるが、個人的にはこのベンチャーズバージョンを押したい。ほとばしるロックンロールと、孤独なクリスマスを過ごす男の切ない叙情が交差する、素晴らしい名演。
現代の耳で一聴すると、なんだかジャスコかどこかの大型スーパーに流れる店内放送に聞こえてしまうかもしれない。が、よくよく聞けばその種の「BGM」とベンチャーズの演奏が、まったく違っていることはすぐわかる。彼らがクリスマス商戦に臨むコマーシャリズムから離れて、ノリノリでこの名曲をカバーしているからこそ生まれるグルーヴがとてもイノセントで、泣けるのだ。
この曲が収録されている『The Ventures in Christmas』は、誰もが知っているクリスマス・スタンダードに当時のヒット曲のイントロや間奏のフレーズを乗っけるというユニークなアイディアで作られていて、ビートルズの「I Feel Fine」からレイ・チャールズの「What’d I Say」まで、いろいろな曲が登場するが、この「Blue Christmas」で使用されているのが、サーチャーズがヒットさせた「When You Walk In The Room」のイントロである。
When you walk in the room - The Searchers
The Searchers「When You Walk In The Room」 もともとはジャッキー・デシャノンの自作曲
この人力マッシュアップを、単なるユニークなアイディアに終わらせずに形にできたのは、ベンチャーズの面々の力量あってこそ。やはり、メル・テイラーはロック史上最高のドラマーだと思う。
Mint Condition / Little Drummer Boy
Mint Condition / Little Drummer Boy (Official Audio)
最近ではペンタトニックスのバージョンが話題になった、こちらもアメリカではおなじみのクリスマス・スタンダード。
この、ミントコンディションのバージョンは、ド頭のダルなドラムから、セカンドライン大好きな僕に期待感と高揚感を湧き上がらせる。
もともとは1941年に作られた合唱団のための讃美歌。しかも歌詞は、「キリストのために何も贈り物をすることができないほどの貧しい少年が、自分の唯一の特技であるドラムを精一杯披露して捧げる」という、かなり宗教色の強い曲。それをガッツリ崩してR&Bに落とし込んだ発想の勝利。「ドラムが得意な貧しい少年」の無垢なイメージが、このバージョンではとてつもなく不遜でふてぶてしくなっているのが素晴らしい。ブラックミュージックの根本にある、この強烈な「黒い」ふてぶてしさを、「クリスマス」という非常に「漂白された」テーマにぶつけることで生まれる化学反応がもろに表れている。かっこいい。
The Crystals / Santa Claus Is Coming To Town
Christmas Gift for You From Phil Spector
- アーティスト: Phil Spector
- 出版社/メーカー: Sony Legacy
- 発売日: 2015/09/04
- メディア: CD
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偉大なるかなハル・ブレイン!
収録アルバムの『A CHRISTMAS GIFT FOR YOU From Phil Spector』は、やり手プロデューサー、フィル・スペクターが、彼の経営していたレコード会社「フィレス」に所属していた人気アイドルたちを一堂に集めてクリスマス・スタンダードを吹き込ませたオムニバスアルバム。*1バックを務めるのは、60年代前半のスペクターサウンドを支えた鉄壁のスタジオミュージシャン集団・レッキングクルー。収録曲すべてが素晴らしい中この1曲を選んだのは、とにかくハル・ブレインのドラムが存分に楽しめるから。ロック史上最大の盛り上げ上手はハル・ブレインとの思いをあらためて強くする。
「クリスマスパーティー」というテーマと、音を何重にも重ねてぶ厚い壁を作るスペクターの手法とががっちりマッチした奇跡の名盤だが、このアルバムが発売された1963年11月22日は、折り悪くケネディ大統領が暗殺された日と重なっている。追悼と自粛に染まったアメリカで、このアルバムが受け入れられる余地はなく、セールスは惨敗。ヒットは曲の良し悪しによってのみ生まれるのではないという好例。
Donny Hathaway / This Christmas
ベスト・コレクション(ファンタスティック・スーパー・ベスト2009)
- アーティスト: ダニー・ハサウェイ
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
- 発売日: 2009/04/01
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ダニー・ハサウェイの悲しい最期を思うと、希望にあふれたこの時代のハッピーな曲は本当に泣けてくる。
星の数ほどカバーされている曲だが、この曲が本来持っている器の大きさに敬意を表して、やはりオリジナルのダニー・ハサウェイのバージョンを聞こう。
後に「ニュー・ソウルの旗手」として名を上げる以前の1970年にダニーがシングルで出した曲だが、発売直後の売り上げは低調だった。彼が徐々に名声を獲得していくにつれて、この曲もブラックミュージックのクリスマス・スタンダードとして認められていった。
ダニー・ハサウェイは歌もうまいし曲作りも達者だが、なによりアレンジに関するセンスが鋭いというか、偏差値が高いというか。この曲にも彼の曲を料理するうまさが際立っている。頭のドラムの「タタトン」から、ホーンセクション、間奏のピアノソロまでおそらくすべてダニー・ハサウェイがスコアを書いているのだろう。ポップな曲だが、とても緻密に、アカデミックに組み立てられているが故、何度聞いても飽きない。ここ数年、クリスマスシーズンは本当にこればっかり聞いている。
ダニー・ハサウェイは1979年、ニューヨークで滞在中のホテルの15階から飛び降り命を絶った。享年34歳。その年の暮れ、ザ・ウィスパーズというボーカルグループがこの「This Christmas」の替え歌を発表する。その曲の名前は「A Song For Donny」。ダニー・ハサウェイに捧げた一曲だった。
The Whispers - A Song For Donny Official Video
The Beach Boys / Little Saint Nick
The Beach Boys Christmas Album
- アーティスト: Beach Boys
- 出版社/メーカー: Imports
- 発売日: 2011/10/04
- メディア: CD
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The Beach Boys - Little Saint Nick (1991 Remix/Lyric Video)
聖ニコラウス(サンタクロース)を「リトル・セイント・ニック」と呼んじゃうところがかわいい。
なんだか記事を書くたびに出てくるビーチボーイズだが、彼らもクリスマスアルバムを出している。これが結構侮れない名盤で、前半に収録されたブライアン・ウィルソン書き下ろしのオリジナル曲は相当クオリティが高い。
ブライアン・ウィルソンの魅力と言えばその圧倒的なピュアさである。音楽のこと以外全然考えていないので、ビートルズ他・同時代のグループが徐々に取り入れていった、哲学的な歌詞であったりファッション性だったり時代への問いかけだったりというものが全然なく、本気で「リトル・セイント・ニックが真っ赤なボディの4速ボブスレーを乗り回してやってくる」みたいなお気楽な曲に魂を込めて歌うことができる。この無垢さ加減がなんとも素晴らしい。
冒頭のドラムから、彼らの「Little Deuce Coupe」のセルフパロディであることは明白だが、曲としての出来はこっちが上じゃないか。たぶんブライアン・ウィルソンは、サーフィンや車で女の子をナンパするよりも、家にこもってクリスマスを祝う方が好きだったのだろう。そういうことが伝わってくるチャーミングな1曲。
山下達郎 / クリスマスイブ
- アーティスト: 山下達郎,RUSS TITELMAN,吉田美奈子
- 出版社/メーカー: ダブリューイーエー・ジャパン
- 発売日: 1999/06/02
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あれは18歳のクリスマスイブのこと。あまりの予定のなさに、この曲のアルバム版、最初のシングル盤、シングルリマスター版、再リマスター版、再々リマスター版…などを手に入るだけ片っ端から集めて、その音質の違いを聞き分ける、というのにチャレンジしたことがある。むしゃくしゃは夜更け過ぎにタナトスに変わった。あれほど孤独なクリスマスイブは、後にもないし、これから先もないことを祈る。
今更語るまでもない名曲だが、改めて聴いてみて、バックの演奏が思っていた以上に「重い」ことに驚く。伊藤広規・青山純の強力リズム体が打ち出すビートは相当にファンク。だが、トータルで聴くと、この曲はもちろん「ファンク」には定義できないというのがミソ。
1980年代の山下達郎サウンドの根幹をなすコンセプトの一つが、「コード進行やサウンドプロダクションはブラックミュージックからかなり影響を受けているのに、曲をトータルで聴くと、ブラックフィーリングのようなものを全く感じない」という点で*2特にこの「クリスマスイブ」は、「黒っぽさ」を見えないレベルまで沈殿させている。かといって、逆に「白い」音楽かと言うと、そう言い切れるイメージもなく、もちろん「日本の歌謡曲」でもない。例の間奏のカノンも含め、あらゆる音楽形態を下地にしながらも、この曲が描いているのは山下達郎にしかつくれない独自の世界、「イメージとしてのクリスマス」である。現実の「1983年のクリスマス」を描けば、年を経ることに古くなっていくが、イメージはそうそう古びることがない。18歳のクリスマスイブにあれだけ聞いたというのに、いまだ毎年聞くたびに強度が増していく、恐るべきクリスマスソングである。
松任谷由美 / ロッヂで待つクリスマス
- アーティスト: 松任谷由実
- 出版社/メーカー: EMI Records Japan
- 発売日: 1999/02/24
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バブルなクリスマスの権化みたいな曲「恋人がサンタクロース」も、もちろん名曲だが、ユーミンのクリスマスソングと言えばこちらが決定版。静かで温かい曲調だが、歌詞の内容でいえば、「恋人がサンタクロース」よりも、こちら曲の方がはるかにバブリーともいえる。
「ロッヂで待つクリスマス」で見せられるのは、日本人の誰もが夢想したことはあるが、大半の人にとってはほぼ縁のない風景である。そもそも冬山の〈ロッヂ〉でクリスマスを迎えるなどという状況が、殺人事件とセットになってサスペンスドラマやらやけに利発な蝶ネクタイの小学生が出てくるアニメやらでようやく見かける程度だ。先ほどの山下達郎の項でもあったように、「現実」を描いた曲は時を経るごとに古くなるが、「イメージ」はそうそう簡単に古くならないというマジックが、この曲でも生きている。ただしユーミンの「イメージ」は、達郎のそれのように、孤独でじめじめしたものではない。とてもきらびやかで、温かく、当たり前のように愛情にあふれている。
ユーミンのメロディメイカーとしての地力がこれほどあらわれた曲もない。サビでの爆発で感情があふれ出し、最後はきっちりメジャー終止して、温かい余韻に浸る。これ以外にも、ユーミンは結構クリスマスに関係する曲を書いていて、ぱっと思いつくだけでも「12月の雨」「3-Dのクリスマスカード」「忘れかけたあなたへのメリークリスマス」などに〈クリスマス〉というワードが登場する。もれなく名曲だが、間違いなくこの曲が最高だろう。
おわりに
以上です。ご家庭のプレイリストの参考にしていただければ幸いです。
ではでは、良いクリスマスを。