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フリーの小噺と好きな音楽

「あ~よかったな、ユーミンが夭折してなくて」と思える、松任谷由実、21世紀の名曲ベスト30 vol.2

他意なく始めてみたら、思ってたよりあるな、名曲。

っていうかさ、CD並べて気づいたんだけど、俺が初めて買ったユーミンのオリジナルアルバム『WINGS OF WINTER, SHADE OF SUMMER』が発売されてもう18年経つってマジか。なんか、いまだに新作感あるけどなあ、この辺…。

詳細は本文に譲るが、21世紀に入った段階で、ユーミンはすでにデビューから30年ほどの年月を数えており、世間からは「あがったミュージシャン」「セールスとは関係のないところにいる大御所」という目で見られていように思う。そんな世間の目にさらされながらも、ユーミンは、彼女の全盛期を支えた鋭敏なマーケット感覚をかなぐり捨てまで現役の表現者であり続け、新しい表現を取り込むことにこだわり続けていたように思う。もしユーミンが夭折していたら、確かに天才アーティストとして人々の記憶に残り、それはもうかっこよかったかもしれない。しかし現実はそうならなかった。

セールス的な全盛期を過ぎてもなお、苦しみながらユーミンがアルバムの中に残してくれた名曲を聞くにつけ、毎度俺は思う。この人が、今も生きて、音楽表現をし続けてくれて、よかったなあ、と。

 

VIVA! 6X7

VIVA! 6X7

 

 

ということでvo2です。順不同。

 

虹の下のどしゃ降りで

いきなり超個人的な見解を述べさせてもらうんだけど、ユーミンの歌唱表現は、デビューから今日まで、5つの時期に分類できると思っている。

まずは、デビュー直後の初々しさが残る、「下手だけど一生懸命」期。

自分の歌唱スタイルを確立し、それに合った器たる名曲を量産した「下手だからこそ聞かせる」期。

当世最新の技術や、アレンジ技法、チームのサポートで、見事セールス的な全盛期を作り上げた「下手なりに聞かせる」期。

90年代後半から今世紀の序盤まで、苦しみと迷いと実験を繰り返した「下手」期。

そして現在絶賛継続中の「下手だけど楽しそう」期。

この曲は、もうまごうことなく「下手だけど楽しそう」期を代表する名曲。

 

「下手だけど楽しそう」期のユーミンは、こんなこと書くのもおこがましいが、めちゃくちゃかわいい。一瞬(人によって相当の時間)「ちょっとキツいね…」と思うかもしれないが、それを通り過ぎるとすげーキュートで、いとおしくなる。いやマジで。

 

真面目に書こう。ユーミンはデビューから一貫して、その鋭敏な時代を先読みする力、言い換えればマーケット感覚を持って、常に世間の一歩、もしくは二歩先を行き、世の中をリードする曲を出し続けてきた。だけど、90年代後半から、徐々にその感覚が世間の足並みとずれはじめた。なんとか、再び時代の一歩先、二歩前に出ようとして、迷い始めたのが「下手」期であり、マーケット感覚をかなぐり捨てて、自分のやりたい表現を優先し始めたのが、近年の「下手だけど楽しそう」期である、と分類している。

もちろん実際は、アルバム1枚作るにしても、様々な葛藤と苦悩と戦いがあり、楽しいだけではないのは当然なんだけど、「マーケットが求めていること」と「自分の表現したいこと」がかち合ってギリギリの選択をしなければならなくなったとき、「下手だけど楽しい」期のユーミンはきっと後者を選んでいるんだと思うんだよね。それができる立ち位置にいるし、他のミュージシャンに比べればセールスを気にしなくていいわけだし。その試みはいつも成功するわけではないけれど、それが功を奏して、この時期にしか生み出せない名曲もたくさん生まれている。

 

「虹の下のどしゃ降り」を初めて聞いたとき、確かに俺もやっぱりちょっと痛々しいな、と感じてしまった。だけどなんだか可憐で、意外にかわいらしくて、ユーミンはこういう曲がやりたかったのかー、と想像すると、なんだか笑えて、いいなあ、と思ったんだよなあ。

その後の分水嶺になった曲だと思います。いい曲

 

私の心の中の地図

この曲にはすごく好きな一節があって、それが

ふとしたはずみに ペンが憶えてる住所 哀しすぎて

 

という、ある意味「引っ越しあるある」みたいなさりげないフレーズなんだけど、これ、あるよねえ。公的な手続きの書類なんかで住所を書くとき、途中まで書いて、「あ、そうだ、俺はもうあの町を出たんだ」って思って、切なくなるんだよねえ。あんなに早く出ていきたいと願った町なのに。

この曲が世に出たとき、ユーミンはすでに還暦を超え、最後に引越しした記憶なんて、はるか彼方のことだと思うんだけど、こんな繊細なシチュエーションと感情を見つけ出してくるのは、本当に流石としか言いようがないです。

この曲で歌われているのは、出会った人や町への感謝だと思う。人間、ちゃんと歳を重ねると、夢をかなえる途中で住んでいた町や、連れ合いのことを振り返って、素直に感謝できるようになる。この曲も夭折しなかったからこそできた名曲です。

 

永遠が見える日

おい、みんな知ってるか!ここにこんないい曲があるぞ!と叫びたくなる、00年代最高傑作の呼び声も高い名曲。発売前にラジオで初めて聞いたとき、「よかった、ユーミンのファンで…」と思って泣いた高校時代を思い出す。イントロのわずか三音から早くも漂う傑作の予感を、最後まで1mmも裏切らない。作曲家としての名曲、という意味では、全キャリアを通しても相当上位です。今日は頼む、この曲だけでも聞いてくれ。

 

「いちご白書」をもう一度

セルフカバーアルバム『Face’s』より。これ、高校時代に、学校帰りのTSUTAYAで購入したんだけど、ジャケット見て買うの躊躇したのを今でも思い出す。久々に棚から出したら、今見てもやっぱりキツかった。中身もそこそこキツかった。

冒頭で、俺がユーミンの歌を「下手」と書いたのは、あくまで、「プロの歌手の中では比較的、感情表現という面で難がある」という意味で、そうはいっても、“一番うまい素人”よりも、ユーミンのほうが技術は上でしょう、たぶん。だってプロなんだから。

ただやっぱり、セルフカバーはどうしてもオリジナルバージョンと比べてしまうわけで、加えてユーミンが曲を提供している相手というのが、これがもう化け物みたいに歌がうまいプロ中のプロばかりなもんだから、分が悪い。「瞳はダイアモンド」は特につらかった。

そんな中でも、バンバンがオリジナルのこの曲は、ユーミンのこの頃の声質にあっているし、大仰なギターソロがなんだかんだそそるし、いい感じだな、と思ったので一応入れておきます。一曲は入れないと、『Face’s』が不憫。

 

シャツを洗えば byくるりユーミン

 

 

くるりとのコラボシングル。作曲は岸田繁

個人的な話で恐縮なんだけど、普段、自分以外ユーミンのことを話題に上げる人間がめったにいないという生活圏で俺は生きている。なんだけど、いくつか例外的にユーミンの話題が俎上にあがることがあって、そのひとつが、この曲が発売されたときだった。割と周りから「くるりと組んだ曲、いいよね」と言う声が聞こえてきて、なんか自分ごとのようにうれしかった記憶がある。いい曲だもんね~、これ。主にくるりの力だと思うが。

途中ユーミンがメインボーカルを張るパートで、やや強引に(たぶんユーミンのキーに合わせるために)転調するが、そこがいいアクセントになっていてめちゃくちゃかっこよくなっている。いろんな意味で、ユーミンが長生きしてくれたからこそ実現したこのコラボじゃなければ生まれえなかった曲であり、やっぱり人間、夭折なんかするもんじゃないね!(強引に企画の意図を思い出す)。

 

哀しみのルート16

評価が分かれる昭和歌謡風サーフィン&ホット・ロッド曲。

ま、これも「下手だけど楽しそう」期特有の、マーケットよりもユーミンのやりたい表現を優先させた結果生まれた曲だと思います。ベスト盤にも入ってるし、リスナー人気はともかく、本人は気に入ってそう。あと、俺もまあ好きです。

っていうか、久々に聞いたんだけど、

「こんなタイプの曲がやりたかったんだ!ユーミン!」

という新鮮な驚きがいまだにありますね、これ。

 

夢を忘れたDreamer

急にジャクソン・ブラウン風。あんまりキャラに合ってないようなこの手のギターロックがアルバム1枚につき1曲は含まれているが、その中では好きな曲。タイトルの語感と字面が好きで、一時期「指示を出さないDirector」とか「ものを作らぬCreator」とか「責任取らないManager」とか「口には出さないClaimer」とか、もじっていろんな奴に心の中で悪態をついていたことを思い出す(曲と関係ない)。



TWINS

アルバムは『acacia』。なぜか超好き。いきいきとした生バンド感が楽し気。

acacia』というアルバムはユーミンの「下手」期の真っ只中にあると思われる、試行錯誤の時代のアルバムなのだけど、この曲はアレンジも歌も詞も曲も、何か確信めいたものがある。キーに無理がないので、ボーカルに余計な加工をしなくてもよかったのかもしれない。

「TWINS」というのは、いろいろなとらえ方ができる言葉である。夫婦、恋人、兄弟姉妹、ペットと飼い主、エトセトラエトセトラ。そういう具体的な関係性を超えた、相棒・相方といえる人間との別離、というかもうちょっとポジティブに言うと、独立がテーマなのかな、と俺は思う。良曲。

 

幸せになるために

これも『acacia』の収録曲。この後何度か繰り返される、「再会」がテーマ。

若かったころの、憎しみと愛情の振れ幅がマックスの、熱量にまかせた恋愛から時を経て、久々の再開で主人公の女性が得ていたのは、相手への思いやりである。以前のような感情の激流は穏やかになり、別れてから今日までの人生の中で、ちゃんと折り合いをつけてきたという自信が感じられる。けれどやっぱり、それだけじゃなくて、「もしこの人と一緒になっていたら」という後悔や、哀しさもある。アウトロの

B→Em→B

メジャーマイナーの繰り返しに、その辺の揺れが出ているようで切ない。

このままフェードアウトするのかな、と思っていたら、最後静かに、けれど決然と、ちゃんとメジャー終止しているのが50歳を目前にした大人のユーミンならではだな、という気がする。名曲。

 

バトンリレー

ダンスのように抱き寄せたい/バトンリレー

ダンスのように抱き寄せたい/バトンリレー

  • アーティスト:松任谷由実
  • 発売日: 2010/05/26
  • メディア: CD
 

 

『Road Show』収録。「ダンスのように抱き寄せたい」とカップリングでシングルとしても出た。このシングルは、記念すべきユーミン40枚目のシングルであり、2曲とも超強力な曲で、かなり力も入っていたと思うんだけど、チャートアクション上は15位が最高だった。まあ、シングルアーティストじゃないのでね、ユーミンは。とはいえ、これはもっと行っていいと思う。

呼びかけているのは子供だろうか、それとも過去のユーミン自身か。ユーミンは、ずっと止められない時の流れの切なさを歌ってきたのだけど、歳をとったことで、より暖かい視点でそれを切り取るようになって来ていると思う。

長く生きていると、それだけいろいろな人とつながりができて、若いころにはできていた、バッサリとしたドライな切り取り方ができなくなってくる。それは、ある種の「忖度」になって、アーティストとして一つの表現方法を狭めてしまう原因にもなってしまうけど、こうやって、暖かい音楽として昇華させることもできる。だから、アーティストが長生きするのは、悪いことばかりでもないのだと思うのだよね。だから、繰り返しになるけど、ユーミンが生きててくれてよかったなあ、と、こう思うわけであります。

 

次がラストの予定。