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幸せになるより周りもいっしょに地獄へ落ちよう〜読書録『最後の花束』

朝の占いで「読んだことのない作家の本を読むと吉」と出たので、博多駅の本屋で目があった、乃南アサの『最後の花束』を買ってみました。

最後の花束: 乃南アサ短編傑作選 (新潮文庫)

最後の花束: 乃南アサ短編傑作選 (新潮文庫)


エンタメ小説としては今年一番の面白さで、道中一気に読みました。「心霊現象より人間の方が怖い」という人にはオススメの、上質な怪談の連続です。新幹線の中でゾッとしっ放しでしたよ。

「傑作短編集」と銘打たれているように、内容は過去の作品のベスト盤のような趣です。こういった短編集は、一つ一つのあらすじをちょっと書くと即ネタバレになりかねないのでもどかしいですが、一応共通するテーマが「女の嫉妬」となっています。


全11編の中でのマイベストが「祝辞」。
〈結婚式〉って、二人それぞれの、いろんなコミニティの大事な人が集まる人生のハイライトみたいなところがあって、参加してる人分の微妙な心理の、絶妙なバランスで成り立ってるわけです。それだけに、そのバランスがちょっと崩れると、途端に会場が地獄に変わる可能性も潜んでいます。この物語は、はめ損なった小さなピースのせいで、幸せな結婚式が一瞬で崩壊する恐怖を描いています。自分の結婚式で、会社の上司などではなく、友人に祝辞をお願いするという人は必読です。

「妬み」や「嫉み」は多くの人が一度は抱いたことのある感情ではないかと思います。僕自身も、中学時代の「俺の方が偏差値高いのにモテない」というのから始まって、「俺の方がいっしょにいる時間が長いのに振り向いてくれない」「俺の方が頑張ってるのに面白い仕事が来ない」、最近では「俺の記事の方が面白いはずなのにブクマが付かない」等、煮えたぎるジェラシーを抱えて生きてきたので、そういう感情を持つこと自体は理解できるし、そこに恐怖はありません。
恐ろしいのは、その「誰でも抱く可能性がある感情」が、理性を持ってる人間なら絶対考えつかないような狂気の行動を引き起こしてしまうことです。「気持ちはわかる。だが、その結果となる行為は、真人間なら共感できない」という断絶に恐怖を感じるわけです。はじめからキ◯ガイとわかっているなら、「到底理解できない」と心理に壁を作れますが、本書は、丁寧に、丹念に状況と心情を描いて「共感できる」と思わせておいて、いきなり足場を崩してきます。「途中まで共感していたということは、自分にもこんな狂気が潜んでいるのか?」というそら寒い疑念が生まれます。

こんな主語がでかいと叩かれそうですが、ほとんどの人間って、ある状況下の中で感じることは共通することが多いと思うんですよ。聖人君子じゃなかったら、みんなちょっとは誰かを妬んだり嫉んだりして生きてるんじゃないかと思うんですね。「こいつ、とっつきにくいなー」と思ってた奴が案外自分と同じような醜い感情を抱えてて、安心して意気投合したケースは一度や二度じゃありません。だからこそ、そういう面を普段からちょこちょこ見せたり漂わせたりしてる毒のある奴より、いつも笑顔で愛想のいい奴の方が怖いのです。
ある種の人間は、我慢が限界を超えると非常に短絡的な行動に出ます。自分が今すぐ妬ましくてしょうがないあんちくしょうと同じくらい幸せになるのは難しそうと見ると、逆にそいつを巻き込んでいっしょに地獄に落ちようとします。
友達や同僚に対して、不必要に自分の幸せを見せると痛い目にあうので、気をつけた方がいいかもしれません。もっとも、幸せな側はそこに無意識で、嫉妬する側は過剰に意識しているからこそ悲劇が起こるので、防ぐのは難しそうですが。

なにはともあれ、そもそもエンタメとして一流の作品です。占い当たったついでにオススメしておきます。

最後にこの曲でお別れです。それではまた。