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フリーの小噺と好きな音楽

「わかりやすい」と「正しい」は違うということと、五輪ロゴ問題

今日は、自分が大学生の時の苦い思い出話しから始めます。


所属しているゼミで、ある課題に対しての文献を読んで、その内容や感想を発表するというような講義がありまして、自分が発表者になった時のことです。そのテーマやら発表の内容やらは本筋とあまり関係ないので割愛しますが、とにかく、それなりに形になった発表をし終えた僕が、最後にポロっと漏らした

「この本はとてもわかりやすく内容がまとまっていて、××(課題のテーマ)についてよく理解できました」

という考えなしの一言に、ゼミの教授からお説教をいただいたという話なのです。一字一句同じではありませんが、そのお説教は、大筋こんな内容でした。

「〈わかりやすい〉ということは、その情報が〈正しい〉ということとはなにも関連がないことです。自分の憶測や希望と一致しているから受け入れやすいということに過ぎません。それに、これからあなたが研究していくような課題は、一つの原因があって、一つの結果が起こる、というような、単純なものはありません。専門的にある課題を掘り下げようとするなら、これからは〈わかりやすい〉理屈に簡単に飛びつくのはやめなさい」


まー、本当、もっともな話で、今でも当時の青すぎチェリーボーイの自分を振り返ると、恥ずかしさがこみ上げます。自分がついつい〈わかりやすい〉理屈にピョンと飛びついてしまいそうになるたび、立ち止まって思い出す、大切な言葉です。


翻って、五輪ロゴ問題。

一応デザイン業界の端の端にいる人間として、思うことは多々あります。が、実際にパクったとかパクってないとかは置いといて、ネットに溢れる〈わかりやすい〉パクりの「証拠」とされる、画像のまとめの数々と、それを〈正しい〉情報として受け入れている人の数々については、「やっぱネットってクソの山だわ」と思わざるを得んわけです。

いや、実際に「証拠」とされている画像を引っ張ってきた人とか、それを実際に重ねて「検証」(と言えるか微妙だけど)してる人についてはまだわかるんですよ、「暇だな」と思うだけで。少なくとも自分で資料を見つけたり調べたりはしてるわけですから。

ただ、そうやってできた〈わかりやすい〉まとめを見て、とりあえず一緒になって佐野さん個人を叩いてるような人は、一旦落ち着いて振り返ってみたほうがいいんじゃないかと思います。本当にその〈わかりやすい〉比較画像は〈正しい〉のか、ということを。


ものすごい勢いで燃え上がった今回の騒動ですが、それは「デザイン」というジャンルが他のクリエイティブな「モノづくり」のジャンルに比べて、一般の、専門知識がない方であれ〈わかりやすい〉ものだったことにも関係しています。もしコトが「オリンピックのロゴデザイン」ではなく、例えば、五輪テーマソング「新東京音頭」とか、五輪記念小説「東京五輪物語」とか、五輪記念映画「五輪万歳」とかだったら、仮に何らかのパクりのようなことが行われいたとしても、ここまで大事にはならなかったでしょう。音楽や小説や映画といった作品は、通して全体を理解するのにそれなりの時間と努力を必要としますので、作品間の比較は容易ではなく、わかりにくいものだからです。

ビーチボーイズの「サーフィンUSA」はチャック・ベリーの「スウィートリトルシックスティーン」の改作で、さらにそのパロディでビートルズの「バック・イン・ザUSSR」が生まれるわけですが、それらを表層的・短絡的に「パクリだ」と決めつける人はあんまり見かけません。それら3曲をしっかり聞き比べるような層の人は、ロックミュージックの歩んだ歴史と背景を理解している場合が多いからです。

それでも、音楽はその手のパクリ疑惑みたいなものが比較的多い部類です。長くて4分半のポップミュージックは、僕のような聴き専門の素人にも「類似品」が見つけやすいですから。いわんや、過程がどうであっても、実際の成果物は言ってみれば「画像一枚」で判断されてしまう「デザイン」というジャンルに携わるデザイナーさんの気苦労に想いを馳せれば、もう本当に頭が下がるというものです。


閑話休題。佐野さんのデザインが「パクリじゃない」といいたいわけじゃないし、実際パクってたらそれはもちろんダメなんですけど、だからと言って次々に流れてくる、新たな「証拠」に対しては、一回冷静になったほうがいいです。「嘘は嘘であると(略)」という格言は、もはやネット民の常識として根付いたかに思える言葉ですが、それを自分の都合のいい〈わかりやすい〉情報にも適応できるかどうかというのは別の話で、意外と難しいスキルのようですから。


まあそもそもネットという媒体自体が、よりコンパクトでよりわかりやすいコンテンツの提供に特化して進化してきた側面もあるので、ある程度はしょうがないというか、今後は2chまとめサイトみたいなものを見ないように生活すれば事足りたのかもしれませんが、この件に関してはテレビまで完全にネットの後追いに入ってしまっているのも腹立たしいわけです。そういう〈わかりやすさ〉とか〈速さ〉とかで今更ネットと張り合っても勝てないことにいい加減気づかないと、目の前の視聴率は取れても媒体の未来は暗いぞ、と思うんですけど。まあテレビも見なけりゃいい話ですが。


個人的にはオリンピックとか他所でやってほしいと思っているタイプですが、若かりし自分の過ちと有意義な戒めを思い出したという話です。

ではでは。