ロックンロール落語「コカイン怖い」
※以下のお話は、実在の人物、団体とは一切関係ございません。
キース「そんなわけで、俺たちも随分と大きなバンドになった。去年はアメリカでツアーもやって大成功を収めた。だけど、これからもさらに躍進していくためにはもう一度自分たち自身のことをよおく知る必要があると思う。そこで今日は、バンドのメンバー全員が思い切って自分の怖いものを発表する機会を設けたいと思うが、どうだ?」
ミック「異議なし」チャーリー「異議なし」ビル「異議なし」
ミック「じゃあ早速キース、お前の怖いものはなんだ。テルミー」
キース「俺は何と言っても雷だな。ピカッと光るのはまだ耐えられるが、あの音がだめだ。」
ミック「なるほど。チャーリーは」
チャーリー「俺は悪魔だ。あのビジュアルが怖い。むかしっから駄目だ」
ミック「ふうん、お前は?」
ビル「俺は女の涙だな。あれを見るともうなんでも言うこと聞いちゃうね。てんでだめだ」
ミック「何を言いやがる…」
キース「そういうお前さんは?ミック」
ミック「俺はサイコロだ、あの、ギャンブルで使うやつ。あんなに思い通りにならないもんはないぜ」
キース「なるほどね」
一行のそんな話を黙ってにやにや聞いていたのがブライアン。
ミック「お前は何か怖いものはないか?」
ブライアン「ないねっ、ないない」
キース「雷は怖くないのか?」
ブライアン「あんなもんはただピカピカ光ってるだけだ。自慢じゃないが俺は稲妻がごろごろなりまくった日に生まれた、ジャンピンジャックフラッシュと呼ばれた男でね、ちょっと雷が鳴ったくらいじゃ怖くもなんともない」
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チャーリー「じゃあ悪魔は?」
ブライアン「悪魔なんてのは怖いどころかかわいそうなくらいさ。なんでもかんでも、悪いことがあれば全部あいつのせいにされる。孤独なやつさ。怖いなんてもんじゃない、かえって憐みの気持ちしかないね、俺は」
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ミック「サイコロは?俺はあれが転がってる間ドキドキして目を開けてらんねえんだ」
ブライアン「サイコロなんてのは転がり始めちまえば己の力でどうすることもできねえんだ。怖がる方がばかばかしいや。いい目が出ようと悪い目が出ようと、何も考えずに転がしときゃいいのさ。転がせ転がせ、ダイスを転がせってね。」
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ビル「それじゃあ女の涙だ。あれにはお前もまいるはずだ」
ブライアン「バカかお前は。気持ち悪いこと言いやがって。女なんて泣いてるときは本気に見えるがあんなもんすぐに乾いて一回寝ちまえばケロッとしてやがる。アズティアーズゴーバイだ。あんなもん怖がる奴は馬鹿野郎だね。」
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ミック「ずいぶんと大きく出たね。じゃあお前はこの世に何も怖いものがないんだな?」
ブライアン「怖いもの、怖いものねえ…。そこまで言われるとね、まあこの世に一つだけあると言えばあるんだがね、どうもね…」
キース「なんだそのあると言えばあるというのは、それを言え!俺達はお前に 怖いものを公表してお前だけが言わない、こんなことは絶対に許されんぞ!言え、言え、」
ブライアン「いやね、まあでもこれはね、本当にシャレにならないからね、言いたくないんだよ。口に出すのも恐ろしいんだよ、もう考えるだけでゾクゾク震えが来ちゃうんだ。だからね、うーん、どうしたもんかね」
ミック「なんだよ仲間じゃねえか。さ、俺たちを信用して、な、な、言ってみなよ、な、言ってみなって、言えよこのFACK野郎!」
ブライアン「あー、そうだね、みんなも言ったからね。そうだね、じゃあ、ほんと、誰にも言うんじゃねえぞ。本当に怖いんだから」
キース「言わない言わない。いいから早く言えって」
ブライアン「あー、じゃあな、いうぞ(小声で)コカイン」
ミック「あ?」
ブライアン「(小声)だから、コ・カ・イ・ン」
キース「(大声で)コカインだ?」
ブライアン「ああやめてくれ、そんな大声で言わないでくれ。あーもうだめだ、俺は怖い。そんな言葉を発したり聞いたりするだけで気分が悪くなってきた。」
ミック「コカインって、あのコカインか?」
ブライアン「あのコカイン以外の何があるってんだ。特に上物の混ざり物のないやつなんかはもう、ブルル(震える)、だめだ、想像しただけで震えが止まらない。いいか、俺の前に絶対にコカインを持ってくるなよ、絶対だからな。もうだめだ、もういいだろ。俺は気分が悪い、ホテルに戻って寝るからな」
というわけでブライアンはふらふらとその場を後にしたのでございます。さて残されたメンバーはこれを聞いて大喜び。
キース「まさかあの野郎がコカイン恐怖症とはな」
チャーリー「意外な組み合わせだぜ、こりゃ」
ミック「そうとわかりゃ、今から俺たちのコネを使ってロンドン中のコカインをかき集めるんだ」
バタバタバタバタバタ、バタバタバタバタ
ビル「それ、コロンビア産」チャーリー「それ、ペルー産」キース「それ、ボリビア産」ミック「それ、エチオピア産」
ミック「ずいぶん集めたな、こりゃ、俺達4人で使っても1年は軽く持つぜ」
キース「ああ、ほんとはここでパーティとしゃれ込みたいところだが、まずはあの憎たらしいブライアンを潰すのが先だ。あいつの泊まってる部屋にこいつをしこたま流し込んでやるぜ」
バタバタバタバタ、がちゃり、きいぃ、
ミック「よーし、しめた、あいつ鍵をかけてねえ」
キース「いびきが聞こえるぜ、のんきに寝てやがる。まあ今のうちにしあわせをかみしめりゃあいいぜ、これから地獄の始まりだ」
と言って全員でブライアンの部屋にコカインの袋を次々と投げ込む。
どさりどさりどさりどさり
ミック「おい、ブライアン、起きろ、起きろ。お前の大好きなもんを俺たち仲間がたくさん集めてきてやったぜ」
ブライアン「んんー、なんだ、なんだ…。あっ!これは、これはこれはコカインじゃねえか!あー、ちくしょう、だから言いたくなかったんだ!あー怖い、怖い怖い怖い。こんないっぱいのコカイン、もう(グスッ)涙が(グスッ)止まらねえよおオイオイオイ」
キース「けっけっけ、いいザマだ、あいつ、泣いてやがるぜ」
ブライアン「ああ怖い、怖い怖い怖い。どうしようどうしよう…。もう怖いから火で燃しちまえ、火を火を火をつけて、あっ、煙だ、煙になった。これも怖い。怖いから全部すっちまえ。体に入れちまえ」
ミック「あの野郎怖さのあまり錯乱してやがるぜ!」
ブライアン「ああ、だめだ。煙を吸うだけじゃとてもとても減らない。こいつはもう、直接体に入れちまえ(注射針を刺すしぐさ)おお、おお怖い。怖くて震えが、うひー、うひひひひ。怖い怖い、うひーうひひひ。」
チャーリー「おい、なんだか様子がおかしいぜ」
ミック「言われるまでもねえ、あの野郎、俺たちをだましやがった!」
キース「ファッキンシット!この野郎!てめえほんとは何が怖い!」
ブライアン「この辺でいい女が怖い。」
(♪出囃子)
※捕捉
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