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歌手という芸道を極めたアレサ・フランクリンの名唱10選

Aretha Franklinが死んだ。

どのような集計方法を採ったとしても、全人類の最大多数が、彼女こそ「地球でいちばん歌が上手い女」だと認知していたことは、あらゆるランキングや著名な同業者の発言からも明らかだし、彼女の死が世界規模で見てあまりにも大きな損失であることも、今更僕が言うまでもないことではある。しかし同時に、どこの誰が、何度繰り返し言ったとしても伝えきれないのがアレサの偉大さであり、野暮を承知で何か書いておきたいと思う。

 

アレサが偉大なのは、「表現」という、実に多彩な方法が存在する世界で、あくまでも「歌手」としての表現に最後までこだわり続けたということであろう。私の知る限り、彼女は自ら詞や曲を書いたことはなかった。また、歌を通して以外の方法で、自らの政治的・宗教的その他の思想スタンスを発表することもなかったのではないかと思う。1960年代から続く長期のキャリアの中で、こうした姿勢を貫くことができたミュージシャンは皆無に等しいと言っていいのではないか。

 

芸道以外の方法で自分の意見を表明する現代のアーティストを批判する意図はない。時代性もあるだろう。しかし、アレサ・フランクリンがもし2018年現在にキャリアの全盛期を迎えていたとして、それでもなお、彼女がSNSやブログに興じる姿は想像できない。僕がアレサ・フランクリンのことを思う時、彼女は常に歌っていて、それ以外の、つまるところ「生活」のようなものを想像することができないのだ。

 

ソウルミュージックというジャンルは、黒人の労働歌であったブルースと、霊歌であったゴスペルが融合した、いわば等身大の苦しい現実から、一時的に離脱するための側面があった。その、辛い現実からの飛翔を、自らの喉一本で何度もやってのけ、歌手という自分の選んだ芸道に最後まで真摯に責任を持ち続けた彼女の姿には、感嘆の念を禁じ得ない。

 

家にある彼女のアルバムをありったけ並べて聞くことが、私のできる唯一の追悼であるように思う。

 

というわけで、一通り思いつくまま、アレサ・フランクリンの名唱10選です。

 

Rock Steady

このころのアレサは無敵。とてつもないグルーヴ。数多くの再演があるが、レコードに刻まれたこのバージョンがベスト。のちに安室ちゃんもカバーしている。

 

Jumpin' Jack Flash

言わずと知れたローリングストーンズの代表曲を堂々とカバー。しかもストーンズキース・リチャーズロン・ウッドを従えて。

「大地が震える」という形容が相応しい生涯の絶唱

 

Let It Be

ストーンズの次はビートルズ

もともとポール・マッカートニーはこの曲をアレサのために書いたらしい。リリースも、本家ビートルズよりアレサの方が実は先。

 

 

Since You've Been Gone

人を愛する喜びがほとばしる!この曲の冒頭を聞くたび、歌とはメッセージの内容ではなく熱量なのだということを心底思う。「Baby」というたったそれだけの言葉で、人をこれだけ感動させられる歌手が、世界にどれだけいるのだろうか。

 

Think

これはやっぱり「ブルースブラザーズ」の名シーンから。もう、何時間でも見ていられる。旦那役のマット・マーフィーも、彼女にならさらに何時間でもなじり続けて欲しかったのではないかと想像する。

ちなみにそのマット・マーフィーも、先日6月15日に88歳で亡くなった。

 

Respect

ええ、ええ、リスペクトしてますとも!してますって!と後じさりせずにはおれない後半の畳み掛け。いや凄い。

 

I Never Loved a Man (The Way I Love You)

フェイムの音がしてる。この曲もそうだけど、このアルバム何回聴いたかなぁ…。

 

I Say A Little Prayer

ソウルミュージックと言えばウワーッとガナるイメージがあるわけだが、本来はアレサのように、抑えるところはしっかり抑えるというのがこの音楽の本質であった。それがあればこその後半の爆発。超好き。

 

Amazing Grace

色々なバージョンがあるが、意外と後半弾けまくる、このオバマプレゼンテッドバージョンが一番好き。アメイジンググレイスという偉大な名曲すら、アレサにとっては己の今の感情を発露するための器に過ぎず、しかも最後の方にはその器としての役目も果たせずアレサ・フランクリンという存在が溢れ出しているのが素晴らしい。

 

(You Make Me Feel Like) A Natural Woman

キャロル・キング&ジェリー・ゴフィンの名コンビが生み出したポップス史上最高と言っていい大名曲。このバージョンは2015年のケネディセンター名誉賞受賞式で、受賞者であるキャロル・キングのプレゼンターとしてアレサが登場した時のもの。作者であるキャロル・キングも見守る中(リアクションが可愛い!)でのまさに絶唱!コートを脱いだ時点ですでにスタンディングオベーション!最高です。

 

心よりご冥福をお祈りします。