Add Some Comedy To Your Day

フリーの小噺と好きな音楽

悲しい夜にはうどんを食べればいいと歌う、松本人志と吉田美和

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コミックソングというジャンルは「笑わせよう」という意図が時にミエミエになってしまい、何年か経った後で聞くと案外白けた気持ちになってしまったりするものだが、その中で稀に相当な強度を保ち続けている曲もある。それが、「ああエキセントリック少年ボウイ」だ。

 


ああエキセントリックボウイ Ah Eccentric Boy

 

 我々の世代にはおなじみの「ダウンタウンのごっつええ感じ」の中の1コーナー「エキセントリック少年ボウイ」のエンディングテーマという体で作られたこの曲。オープニングである「エキセントリック少年ボウイのテーマ」と比べて地味ではあったが、哀愁漂うメロディと世界名作劇場っぽいエンディング映像に合わせて歌われる、松本人志のシニカルなあるあるネタは、笑えながらも聞く者にじんわりと一抹の哀しさを残した。

 

この曲の中で、僕が特に好きなのが「ああうどんくらいしか食べる気がしない」というフレーズである。なんてことはない一文ではあるが、大きな共感、「そういえば調子悪い時ってそんなこと思うね」という驚きと気づき、また、「うどんくらいしか食べる気がしない状況って、どんな状況なんだろ」といった想像を掻き立てる、非常に深い一文でもある。

 

「エキセントリック少年ボウイ」のテーマ

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で、話はドリカムにつながる。

「ああエキセントリック少年ボウイ」から経過すること2年、1999年に発売されたDreams Come Trueの25枚目のシングル「なんて恋したんだろ」は、数あるドリカムの名曲群の中でも一際生々しい生活感とリアルな別離の感覚を聞く者に焼き付かせる、キャリア屈指の名曲である。

 

なんて恋したんだろ

なんて恋したんだろ

  • provided courtesy of iTunes

 

魅力を語れば尽きないが、個人的には冒頭の歌詞に強く惹きつけられる。それが

 

最後の夜 話し疲れて ふたりでおうどん 泣きながら食べた

 

という一節である。このワンフレーズが無性に泣ける。さらに、一曲通して聴くと、ますますこの冒頭の歌詞の素晴らしさがわかるというか、「おうどん」という食物のチョイスにとてつもなく重い説得力が感じられて、また泣ける。

一生のうちで何回経験するかわからないほどの辛い別れの時でも、生き物だから腹は減る。ただ、深い悲しみに身を任せていたいときにさえ、人は食べなければならない。それがとてつもなく切ない。そんな打ちひしがれたひと時に、うどん以上にふさわしい食材があるだろうか。素うどんなら調理も楽だし、めんつゆと冷凍麺さえあれば最低限のものはできる。やわらかくて、なんとかのどに通りそうだし、それになにより温かい。二人で過ごす最後の夜、しかも、もうすっかり話し疲れてしまった体で、「うどんくらいしか食べる気がしない」と思った二人が、その割にしっかりどんぶりにがっついている情景がはっきりと目に浮かぶ。頭の中で入れ替えてみていただければお分かりいただけると思うのだが、ここでの「おうどん」は、他の食物では絶体絶命的に代替え不可能である。「かけそば」でも「ラーメン」でも「チャーハン」でも、何でも構わないが、この世のありとあらゆる食材食品を代入してみても、この曲のこの歌詞には「おうどん」が圧倒的に最適解であることを再確認するだけになるだろう。

歌詞も素晴らしいが、この「なんて恋したんだろ」という曲は楽理的にも結構チャレンジしている。曲の後半でドラムンベースが使われているのだが、その部分は恐らくうどんの汁を飲み干しながら、今までの思い出やら感情やらがあふれて止まらなくなっていることを表現しているんだろうと思う。そして、ドラムンベースのパートから元の8ビートに戻ってくる箇所は、汁を飲み干して腹を満たして前を向く二人だ。曲と歌詞のシンクロも素晴らしい。いやほんと、「なんて恋したんだろ」は、なんてすごい歌なんだろ。

 

DREAMS COME TRUE THE ウラBEST! 私だけのドリカム

DREAMS COME TRUE THE ウラBEST! 私だけのドリカム

 

 

 「うどんくらいしか食べる気がしない」と悲観的に歌う松本人志と、「おうどんでも食べよっか」と泣きながら笑ってみせた吉田美和。二人の性格の違いが生んだ、2つの名曲を聴きながら、悲しくてたまらない夜に僕はうどんを食べる。

 


マンモス西 うどん