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走るのに最適なビートルズのアルバム決定戦〜RUNNING with The Beatles vol.2

一度始めたことは何があってもやり通すことと、一日一日を最善に、自分の一番幸せだと思えることをやることは、どちらがいい生き方なんでしょう。答えは人それぞれですが、前回の記事に「vol.1」と銘打ったからにはともかくも続きを書かなければ恥ずかしい考えるタジマです。

前回のラスト『A Hard Day's Night』で、設定コースを完走することに初めて成功しました。客観的指標である「タイム」は、よってここからようやく意味を成すことになります。

本日は初期から中期にかけての3作品です。さっそく行ってみましょう。

 

 

BEATLES FOR SALE』

 

  • タイム 50.34
  • 走行時爽快感 ★★★★
  • ベストランニングソング「Honey Don't」
  • ワーストランニングソング「Mr.Moonlight」

ある程度のビートルズ好き以外にとっては、聞いたことのあるようなメジャーな曲が「Eight Day's A Week」くらいしかなく、ジャケットの4人の顔もくたびれているため、どこか地味なアルバム。しかしながら、ビートルズの演奏力がいかんなく発揮された秀逸な作品集であり、アルバム単位ではこれが僕のフェイバリット。

これといったウィークポイントも見つからず、8.5kmという距離感に慣れてきたこともあって、今までのような苦痛もなくゴール。デビューアルバムのころは2曲目あたりで完全に息が上がっていたことを思うと、つくづく慣性というのはすごい。

過去のアルバムと比べると、最初の3曲「No Reply」「I'm A Loser」「Baby's In Black」の立ち上がりはパワフルではあるが意外なほど静かでコントロールされている。これがスタートダッシュで飛ばしすぎてバテるのを防いでくれた。体が走るためのギアに切り替わったあたりの4曲目「Rock And Roll Music」で、グッとロックンロールになる構成もいい。

意外にもベストランニングソングに選ばれたのは、リンゴが歌う「Honey Don't」である。普通に聞くときは高確率で聞き飛ばす曲(ゴメン)だが、恐ろしくBPMがハマっていて走りやすかった。そのほか「I Don't Want To Spoil The Party」「Everybody's Trying To Be My Baby」など、地味なB面の曲が想像以上にペース維持に抜群の効果を発揮したのはうれしい誤算であった。

ワーストランニングソングに選ばれてしまった「Mr.Moonlight」は、夜道での突然の雄叫びにびっくりしたため。何百回も聞いているんだからいい加減慣れないもんかなとも思うが、このジョン・レノンの引っ張りには毎回ビビる。


The Beatles "Mr. Moonlight"

 

 

『Help!』

 

ヘルプ!

ヘルプ!

 
  • タイム 49.36
  • 走行時爽快感 ★★★★
  • ベストランニングソング「The Night Before」
  • ワーストランニングソング「Yesterday」

おそらくビートルズの最高傑作「Help!」や、世界初のハードロック「涙の乗車券」、ビーチボーイズもカバーした「You've Got To Hide Your Love Away」、公式アルバムでは最後のカバー曲となった「Dissy Miss Lizzy」など、いかにも走りやすそうな良曲が並ぶ中、圧倒的な快適走行を実現したのが初期ポールの傑作「The Night Before」である。BPMから展開、メロディ、アレンジ、ポールのボーカル等すべての要素が、走るために作られたのではないかという思いすら抱かせる傑作ランニングソング。もうこの企画、ビートルズ聞きながら走る場合、これをずっとリピートしていればOKという結論でいいんじゃないだろうか。

 


The Beatles - The Night Before

その他の曲も大過なく、非常にいい塩梅で折り返し地点まで到達したが、後半に思わぬ伏兵が潜んでいた。同じくポールが書いた「I've Just Seen A Face」と、20世紀のスタンダード「Yesterday」である。

なんと同日に収録されたというこの2曲は、まずスピード感の落差がすごい。疾風怒濤に通り過ぎていく「I've Just Seen A Face」の後に「Yesterday」は、心地よくリズムに乗りたいだけの人間を振り回す、ランナー泣かせの展開。たぶんそうだろうなと思っていたが、実際やってみるとイエスタデイではアドレナリンは出ない。タイムは更新したが、この2曲が痛恨の打撃となって、走行時爽快感は★一つ減点。

 

 

『Rubber Soul』

 

ラバー・ソウル

ラバー・ソウル

 
  •  タイム 47.45
  • 走行時爽快感 ★★★★★
  • ベストランニングソング「Run For Your Life」
  • ワーストランニングソング「Girl」

ビートルズが数多のブリティッシュビートグループから頭3つ分ほど抜け出したことを高らかに宣言する、中期の傑作「Drive My Car」から快調なスタートを切る。

その後も、浮遊感と空白感が常に漂う、この時期のビートルズにしか出せない不思議な音像の中、素晴らしい調子で飛ばす。強烈な村上春樹感が僕の体を駆け抜ける。これだ、俺が求めていたのは。見よ、すれ違う人々よ!今俺は現代社会のしがらみによって抑圧された感情を昇華するべく、『ラバーソウル』を聴きながら、街を疾走しているぞ!あたかも村上春樹のごたる!さあ俺に惹かれろ!なんとなく声をかけろ!そして行きずりでセックスしろ!


Norwegian Wood - Official Trailer

あえてワーストランニングソングを一曲と言われれば、テンポの都合から「Girl」を選ぶが、それすらこの絶妙にコントロールされた浮遊感の中にあっては些細な問題。最後の「Run For Your Life」という、この企画のために作られたのではなかろうかという曲で終わりを迎えるまで、ハイテンションのまま回転木馬のデッドヒート。過去最高のタイムでゴールすることができた。

とにかくランニングを始めた当初の目的である、「村上春樹感を醸し出す」が(本人の中では)大いに達成され大満足。ペース維持も容易で、素晴らしいランニングのためのアルバムだったと思う。

 

 

総評

あらためて『Rubber Soul』がビートルズの、そして20世紀ポピュラーミュージックの分水嶺であったことを、走りながら感じた初期から中期にかけての3枚でした。

この辺まではまだ全然走りやすいですね。非常に安定した回だったと思います。

しかしここからドラッグとインドと過度のスタジオワークによって、ランナー泣かせのサイケデリック期に突入します。本当の地獄はここからだ!

ということで、次回は『リボルバー』『サージェントペパーズ』『ホワイトアルバム』となります。どうぞお楽しみに。