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フリーの小噺と好きな音楽

ファッキン・サイド・オブ・ボブ・ディラン~俺の好きなディランの曲~

俺にとってボブ・ディランは、「歌下手なのかうまいのか結局よくわからん天パヤロー」であり、「『くよくよするな』と歌う割に、自分はみみっちいことでくよくよしてばかりいる情けない天パヤロー」であり、「ジャケットアートワーク下手クソ過ぎ天パヤロー」であり、なにより、「愛すべきファッキンロックンロールな天パヤロー」なのであった。それが、昨日を境に、これからは「ノーベル文学賞」というしょーもない肩書一つで、世界中の有象無象が語ることができる存在になってしまった。悔しい、実に悔しい。

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2016年10月13日は、1980年12月8日と並ぶ、それまで各々の心の中で代替え不可能だったロックンローラーが、わかりやすく記号化されてしまった記念日になってしまうかもしれない。すなわち、「愛と平和の使者」という称号を得ると同時に、「世界で一番”C'mon”という歌詞をグッと響かせることのできる歌手」であったり、「世界で初めてラリッて書いた曲をヒットさせたキ○ガイ」であったり、「世界有数の男も濡れるイケメンアイドル」であったり、「世界で相当情けない部類に入るマザコン&嫁コン」であったりの表情を失わざるを得なかったジョン・レノンの死亡日と昨日が、同程度の意味合いを持つかもしれないということだ。

ええい、くよくよしていてもしょうがない。怒りの涙を流そうと、時代は変わる。ノーベル賞を取ったことごときで、俺はもちろんディランの音楽のファンをやめるわけもないし、そのスタンスが変わることもないが、とにかく、世界の片隅でたった一人ででも揺り戻しを始めるのだ。クソロックンロールなディランのアナザーサイドを、ファッキンラウドに叫ぶのだ。

 

ということで、今日はあくまで僕の好きなボブ・ディランの曲をご紹介します。デカイ音で行こうぜ!

 

「北国の少女」 

収録アルバム『THE FREEWHEELIN’ BOB DYLAN
フリーホイーリン・ボブ・ディラン

フリーホイーリン・ボブ・ディラン

 

 

ファッキンラウドなロックンロールとかなんとか言いながら、フォーク期のディランがやっぱりいちばん好きだ(すいません)。

たとえ英語の歌詞がわからなくても、この曲を聴きながら目を閉じると、素朴で化粧っ気のない北国の女の子と、その娘に未練タラタラで、情けなくも知人に彼女の近況を伝えてくれるよう懇願するボブ・ディランという男の姿が浮かんでくるから不思議である。

 

Girl from the North Country

Girl from the North Country

 

とにかく一曲目の「風に吹かれて」及び、ディランの〈反戦ソング〉の代表格(というかこの曲以外まともな反戦歌ってあったっけ?)の「戦争の親玉」がクローズアップされることの多い本アルバムだが、個人的なハイライトは、この曲と「くよくよするな」で、とくに「北国の少女」の、メロディー・歌・演奏・歌詞が総力で紡ぐ視覚性・映像性は、他の追随を許さない。フォーク期のため、音楽の構成要素はディランの歌・ギター・ハーモニカしかないのにもかかわらず、である。のちに『NASHVILLE SKYLINE』というアルバムの中に、ジョニー・キャッシュとの競演で再録されることになるが、痛いくらいの詩情は初演のこのバージョンに軍配が上がる。

それにしても男って、好きだった女の子が長い髪を切ることに対してナイーブすぎるよね。そういう情けない男心を歌わせるとディランはほんとに上手いんだ。

 

「悲しきベイブ」 

収録アルバム『ANOTHER SIDE OF BOB DYLAN
アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン

アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン

 

 

これ、ノーベル賞の授賞式で歌ってくんねえかなあ。「違う違う違う!俺じゃないよ!あんたが探してる男は!」って。

 

It Ain't Me Babe

It Ain't Me Babe

 

数多あるディランの曲の中でも、メロディのキャッチーさは屈指のものになるんじゃないか。前半部で相手の理想の恋人像を歌って見せ、サビで「ノー!ノー!ノー!」という全力否定を入れるという構成の妙だが、そんなことは知らなくても十分感動できる名曲で、「北国の少女」と並ぶ、フォーク期の傑作バラード。だが、この『アナザー・サイド』というアルバムは、いよいよギター一本では音楽的欲求が満たされなくなってきている、ロックなディランへの過渡期の作品でもあり、この曲のバックも、アコギとハーモニカが空間という空間を埋め尽くすべく鳴っている。これこそディラン流アンプラグド・ロック。アルバム単位では本作が一番好きかもしれない。

 

「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」 

収録アルバム『BRINGING IT ALL BACK HOME』
ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム

ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム

 

 

ロクに〈ボブ・ディラン〉という存在を知らずに、とりあえず初めて買ったオリジナルアルバムが僕の場合これだったのだが、その一曲目で度肝を抜かれた。そして思った。「ラップじゃねーか!」

 


Bob Dylan - Subterranean Homesick Blues

このアルバムからディランはエレクトリック楽器を取り入れ、本格的なロック化を図っていくが、まだまだバックのドラムもベースもカントリーの域を出ておらず、現場でも混乱が渦巻いていたことは想像に難くない。ゆえにぶちまけられることになった「何でもあり感」がとにかく素晴らしく、フォークだロックだラップだなどというわかりやすいキャッチコピーなど吹き飛ばす迫力にあふれている。このメチャクチャこそが音楽という表現の意義だと声高らかに叫びたい。

今聞いてもやっぱり「ラップじゃねーか!」だが、この、すべてを巻き込んで突進していく勢いの前にはジャンルやカテゴライズなど無意味でしかなく、ただひたすら〈ボブ・ディラン状態〉としか言いようのない嵐の中に放り込まれて2分半が過ぎていく。最高。

 

「I Want You」

収録アルバム『BLONDE ON BLONDE』
ブロンド・オン・ブロンド

ブロンド・オン・ブロンド

 

 

今更「Like A Rolling Stone」を語ってもしょうがないから『HIWAY 61 REVISITED』は飛ばそう。みうらじゅんあたりに聞け。

個人的には強くてロックなディランより、情けなくて女々しいポップなディランが好きなので、どうしても選ぶ曲が偏ってしまうが、やっぱりこれははずせない。

 

I Want You

I Want You

 

ディランにしては軽めの、3分ちょいのポップスだが、ここに彼の情感のすべてが叩き込まれているのではなかろうか。エンディングで頼りなく、徐々に確信をもって吹き荒らされるハーモニカで泣いた。あらゆるロックのハーモニカプレイの中で、この曲のディランのプレイこそがベストだと思っている。

 

「Day Of The Locusts」 

収録アルバム『New Morning』
NEW MORNING

NEW MORNING

 

 

地味アルバムの中の地味曲だが、これホントに好きなんだ。

 

Day of the Locusts

Day of the Locusts

 

70年代らしくバックの主体にピアノが据えられている正統派バラードだが、歌うディランは相変わらず例の「ボブ・ディラン状態」としか言えない何もかも飲み込む勢いを持って突進していくのが素晴らしい。要素一つ一つを取り出してみるとゴスペルっぽい美メロソングだが、全体を聴くとそうしたゴスペル感をあまり感じられないのは、ディラン独自の歌唱とフレージングによるこの突進感のためだろう。がなったかと思うとつぶやくように歌ったり、ヘロヘロしてたと思ったら自信満々になったり、そういう波が激しく、かつ法則性はディラン本人にしかわからない。たぶんこの人、相当エンジニア泣かせなんじゃないか。ともあれそれが「ボブ・ディラン状態」というのを生み出している秘密の一つで、それがこの美メロ路線の曲と絡み合って思いのほかいい相乗効果を発揮する。昔よく聞いていた曲。

 

「Changing Of The Guards」 

収録アルバム『Street-Legal』
Street Legal

Street Legal

 

 

これ、かっこよすぎないか?

Changing of the Guards

Changing of the Guards

 

ディランには珍しい、女性コーラス及びサックスとのがっぷり四つ。これが意外なほどキマっていて素晴らしい。このアルバム以外ではあんまりこういう曲調を見かけないので、『Street-Legal』はそう意味でも貴重な作品集なのだが、あまりにもポップに傾倒したという理由で発売当時は叩かれた。今、最も再評価すべしとの声が上がっている(自社調べ)アルバムである。

ここでのディランは、いつもの「(力を)抜いたり入れたり」の独自軌道な歌唱法をやめ、キメるところはキメ、タメるところはタメるという、「ちゃんとした歌手」然とした歌いぶりを見せる。ゆえに前述の「ディラン状態」は希薄であるものの、こういうストレートなディランも魅力的であり、かっこいい。やればできるじゃん!

 

 

80年代以降はまた後日ということで。

 

個人的におすすめのアルバムは『フリーホイーリン』『アナザー・サイド』『ブロンド・オン・ブロンド』『血の轍』『ストリート・リーガル』あたりか。「声がちょっと…」って思っても大丈夫。俺も初めて”We Are The World”聞いたとき「一人だけ歌下手なおっさんが混じってる!」ってビビり倒したから。慣れようと思えば慣れる。

 


USA for Africa - We are the World

 

というわけでノーベル賞おめでとう!ディラン!