「あ~よかったな、ユーミンが夭折してなくて」と思える、松任谷由実、21世紀の名曲ベスト30 vol.3
こちらの続きです。
最初に考えもなく「ベスト30」と言ってしまったので、最後は無理やりでっち上げなきゃいけない曲もあるかな、などと不敬な予感が一瞬よぎったところもありましたが、でもまあ正直自分自身もなめてたところあったよね、今世紀のユーミンを。言ったはいいけど30曲もあったかな?名曲、という感じでしたけど、ちゃんとありました。BOOKOFF行くと、山ほど積まれている90年代以降のユーミンのアルバムを見て、ファンとして義憤にかられながらも、「さもありなん…」と思ってしまっていた私を、あなたは、ときとどき、遠くで、叱って、と思いましたね。そんな感じです。
順不同、10曲。最後にプレイリストがあります。
恋をリリース
サブスクが解禁になって、こういうオリジナルアルバム未収録曲が気軽に聞けるようになったのはいいんだけど、ユーミンのシングルオンリーの曲って、いざ聞いてみると肩透かしを食らうというか、「あ、単に気に入ってないからアルバムに入れなかったのかな…」という感じの曲が多いですね。
それはとこれとは別の話です。これは2012年に出たシングル。イントロから度肝を抜かれるまさかのモータウンビート。モータウンビートが何か知らない人は適当にここでも見てくれ。
まあ、日本では「ガールポップの超定番定跡」と化しているリズムパターンだが、これも「下手だけど楽しそう」期特有の、若干の悪ノリ感を感じる。やりたかったんでしょうね、女の子だもんね。「もしかしたら俺が見逃してるだけで、アイドルかなんかに書いた曲のセルフカバーかな?曲はいいもんな」と思い、念のためwikipediaで確認してみたが、やっぱりしっかり本人用だった。
今世紀のユーミンファンは、この手の曲を笑って受け入れる度量がいるのである。10回聞け、かわいく思えるから。
ただわけもなく
これは超名曲。アルバムは『WINGS OF WINTER, SHADES OF SUMMER』。このアルバム全体を覆うグレーなトーンで始まって、サビで一気に解き放たれる感じがすばらしい。急に視界が開けた感じがするよね、このサビ。めちゃくちゃ好きで高校の時、「MY BEST YUMING」と銘打ったMD(懐かしい)を自作した際に、1曲目に入れていました。自転車乗ってるときにヘッドホンで聞きながら歌うと、なにげに歌の入りが変拍子で難しくてねー。でもサビを歌うときはやっぱり気持ちいい。そんな15の夏。いや懐かしいわ。
個人的な思い出はともかく、すがすがしくも切ない曲だなー、これ。「きみ」といた過去と、そうでない今が、はっきりと断絶されていることを感じるね。根拠もなく、二人一緒にいられる未来を思い描いていたはずが、説明できない理由によってそれが断ち切られた。曲のさわやかさと相反する、「ただわけもなく」というテーマの切なさ、後戻りのできなさが哀しい。
かわいたアコギを弾いているのは、古参のユーミンファミリーともいえる、吉川忠英。「やさしさに包まれたなら」に並ぶ、彼の名演が聞ける。
灯りをさがして
これも名曲だなあ。収録アルバム『VIVA!6×7』では、この曲と「永遠が見える日」(前回の記事参照)という強力な2曲が並んでいて、アルバムのどでかいハイライトを形成している。
作者本人の実感が伴っているからなのか、21世紀のユーミンを聞いていて一番グッとくるのが、この曲のように、「喪失と前向きに付き合っていく」ことがテーマになっている時だと思う。あと、特に近年のユーミンに感じる「声があんまり出なくなったからこそ出る、熱唱感」みたいなものが胸を打つ。ぜひ聞いてほしい名曲。
あなたと私と
2020年9月現在の最新曲。シミュレーションゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」のタイアップ。純粋に教えて欲しいんだが、刀剣乱舞のファン層とユーミンのファン層って、かぶるようなところがあるのだろうか?このコラボに狂喜乱舞するターゲットが、俺が知らないだけでどこかにいるのだろうか?それともその辺はまるっと無視して、どちらかの熱烈なオファーによって実現したのだろうか?または、あえてものすごく遠いマーケットを結びつける戦略なのだろうか?教えて!代理店の人!
さわやかなコーラス、イントロに導かれて曲が始まると、意外に可憐なAメロ。全体的に「守ってあげたい」風の展開かな、という感じですね。
宇宙図書館
テーマに「宇宙」と来ると身構えてしまうが、聞いてみると案外卑近な事例が歌われているというのはユーミンあるある。ユーミンの感性に惚れた我々ファンは、この手の世界観もすんなり受け入れられる、と思う。なぜなら、昔からユーミンは、一瞬の中に永遠を、今いるこの場所に輪廻を、わずか二人の関係性の中に宇宙を見出してきたからだ。ある種カルト教団の教祖さながらの発信内容、発信力だが、その感性は、信者を扇動することが目的でなく、「人を愛するって、そういうすごい力を秘めてるよね」という気づきを表現するために使われるので、違法性は一切ございません。グレーゾーンです。グレーゾーンポップスです。
で、この曲で歌われているのは、まあいろんなテーマが内包されているんだろうけど、やっぱり亡くなられたお父様のことなんじゃないかなあ、と思うわけです。確か、本人もそんなようなこと言っていたような気がするんだよなあ。近年の良SFソング。
夜空でつながっている
アルバムは『そしてもう一度夢見るだろう』。これは完全に見逃していた良曲。このアルバム、あんまり丁寧に聞き込んでいなかったな…。ジャケかな。やっぱジャケでちょっと距離置いてしまうアルバムってありますよね。
ちょっと話それるけど、こういう記事を書いているからといって、別に近年のユーミンの曲すべてが絶賛に値する名曲なんてことは俺だって思っていなくって(失礼)、アルバムの中に1つでもアタリの曲があったらラッキー程度の認識なのである。逆に言えば、ユーミンのアルバムに関しては、最低1曲、必ず俺にとってのアタリが今もある、という絶対的な信頼があるからこそわざわざ新譜がリリースされるたび物理メディアを購入しているのである。そして、CD分の金を無駄にしたくないので、隅から隅までその「アタリ」を探すために一生懸命聞くのである。個人的には、金を払って物理メディアを買ってないやつにユーミンを批判してほしくないね、という気持ちなのだが、たぶんそういうケチ臭い奴のことをユーミンの方は一番嫌いだと思うので、永遠に片思いだろうな、と思ってますね。
全然関係ない話で文字数を消費してしまった。あれです、要はこの曲は「アタリ」です。
霧の中の影
収録アルバムは『VIVA! 6×7』。このアルバム、いまいちな曲はとことんハマらないのだけど、アタリも多く、しかもそのアタリはめちゃくちゃ大きい。
こういうテンションノートの浮遊感に満ちた曲を書かせたら、今も昔もユーミンに勝る人はいないと思う。
雪月花
超が4~5個つく名曲。アルバムは『WINGS OF WINTER, SHADES OF SUMMER』。
「幸せになるために」の派生形っぽい、歳をとってからの再開がテーマの曲だが、なんというか、「深さ」が違いますね、この曲は。
「雪」「月」「花」に、それぞれユーミン自身のイメージがあるのだろうけど、共通すると思われるのが、その儚さ。美しいけど移ろいゆく、必ず終わりがあるもの、だけどまた再生してはじまっていくもの、のモチーフなんじゃないかな、と思う。終点と始点が重なることで見える永遠性みたいなものが感じられて、聞くたびに底知れぬ感動があります。単に、「久しぶりに会ったらお互い丸くなって、優しくなれました」ということじゃなくて、この再会の喜びすら、終わりがあって、でも何度も巡ってくる、というか。どういう感性があれば、そんなふうに人間の感情を俯瞰的かつエモーショナルに切り取れるのか、不思議。感涙。
One more Kiss
2001年発売のバラードベスト『Sweet, Bitter Sweet』に収録されている書き下ろし曲。このベスト盤、渋い選曲でいいんだよなぁ。アルバム未収録の傑作、「潮風にちぎれて」と「ナビゲイター」が入ってるのも何気にポイント高い。ユーミンのベスト盤というと、最近の『日本の恋と、ユーミンと』が出るまでは、98年の『Neue Musik』が世間的には決定版として認知されていたが(シーズンベストは黒歴史)、この『Sweet, Bitter Sweet』は、荒井時代も通して追えるし、ユーミンの「陰と陽と、その中間色」みたいなものがバランスよく収録されていて、全体としていいとてもコンセプチュアルないいベスト盤でした。
で、この書き下ろし曲。「acacia(アカシア)」辺りに通じるサウンド。でもテーマはすごく身近なラブソング。見逃されている名曲では?
ダンスのように抱き寄せたい
最後。映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』の主題歌。でもユーミンの楽曲って、基本タイアップと独立している傾向にあるというか、この場合も、映画ははるか彼方に消えたが、曲は割と近年の名作としてしっかり残っている。実際名曲。
歌われているのは老境の夫婦だろうか。そういう意味では、21世紀版「経る時」ともいえるかもしれない。
「経る時」は、ユーミンの全キャリアの中でも、もっとも才気にあふれた大名曲だと思うが、それを構成しているのは20代だったユーミンの、徹底的に冷徹で、遥か高みから俯瞰するような、ある意味では「他人事」の視点であった。この頃のユーミンにとって、「老い」は、表現のテーマにはなっても、まだ客観視できる他人事だったのだろう。そんな「他人事」感のある歌詞が、感情がこもっているのかいないのかわからないノンビブラートで歌われることで、時の流れのアンコントローラブルさ、残酷さを聞き手にぶつけてくるのが、「下手だからこそ聞かせる」期ユーミンの、最大の魅力であった。
で、この「ダンスのように抱き寄せたい」である。テーマは同じでも、もうユーミンにあのころのような余裕はない。「老い」は、限りなく「自分ごと」として取り扱わざるを得ないテーマになったし、声も20代の時のようには出なくなった。その、表現者としてカツカツでギリギリの状態でひりだした燃える感情を感じられるのが、近年のユーミンを聞く最大の楽しみである、と言ったら嗜虐的だろうか。聞き手の性癖はともかく、ユーミン自身はこう歌う。
ダンスのように抱き寄せたい
どんなに疲れ みじめに見えてもいい
あなたとなら それでいい
ずっと踊るの このまま
おあとがよろしいようで。
これからも1アルバムに1曲でいいので、名曲を頼みます、ユーミン様。